空蝉(第一号)

万象は心映して今朝の顔知らん顔して車過ぎゆく

五十分何思うなく過ごしいる期末テストを蝉鳴きつづく

自転車の上でバランスとりながら携帯電話の対話がはずむ

よるべなきペットのように絶え間なく携帯電話のベル鳴りつづく

一瞬といえども川面の輝きは心ときめく叫びに似たり

怒りだしたちまち声を人を呑み携帯電話はしゃべくりつづく

油蝉かしましく鳴く校庭にドッヂボールの攻防弾む

教室では心はずまぬ生徒二人ボールを巡れば生き生きとして

路地裏にいきなり駝鳥の首のごとなまなまと赤きカンナ花あり

三匹も土より出でて我が庭の今朝生け垣に空蝉のあり

指ほどの黒き穴より生まれでて空蝉蝉を背にはばたかす

空蝉の背は切り口のあらわにて辺りに響く蝉の音かなし

生け垣に油蝉鳴くしばらくを空蝉殻を震わせて聴く

ひたすらに檜葉の葉先にしがみつく空蝉しばし微風に揺れる

黒胡麻の茎に逆さにしがみつく空蝉禅の思考に入りぬ

金網にひねもす留まる空蝉の背の空洞に風吹き抜ける

帰宅して座りて思い起こすのみただ擦れ違うだけの人群れ

我が庭に空蝉三つぶらさがり午後の日照りは滞りなし

阪急電車過ぎる時風巡り来てつれづれ眠るともなく眠る