十五号燃流氷
遠離り次々消ゆる車見ゆ生の証しは我が視界のみ
死の順のように並んで彼方まで真っ赤に尾灯連なりて行く
さまざまな歴史重なる本統の自分を捜しに古書店に寄る
人の好い生徒がいつも引っ掛かる問題少しひねって作れば
順番に常にどこかで罪犯す人あり決める神もあるらし
紅葉して散ってなくなるまでしばし滅びの時を人楽しみぬ
昨夜よりの雨が作りし水溜まり落ち着いて濃き紅葉を映す
流氷原のごとく落ち葉の散り敷きて黄イチョウ並木のしばらく続く
ライオンのごときグランドピアノにて躍動しつつ弾(はじ)く指見ゆ
流氷も天より落ちて積もりしか黄色きイチョウ葉地にひろがりぬ
巨大な陽昇りて沈む網走を今は孤島のごとくに慕う
この次は遺影となるか現身と語らえば紅葉はらはらと散る
退屈な市民に媚びてマスコミは殺人事件起こるのが好き
現実の殺人事件も作り事めきて生き生きテレビは語る
親しもうなどと言いつつ森荒らす言葉は悪の言い訳ばかり
生き物を殺め悦ぶ人間の笑いをテレビは爽やかに撮る
寝転べば体を寄せてくる娘わが肉体の一部ならねど
風もなく晴れた真昼間黄イチョウの一葉が枝より飛ぶように落つ
湧網線載りしゆえ我が捨てられぬ地図あり佐呂間に終日遊ぶ
見る限り二本の線路光りつつ夕日の山の麓まで伸ぶ
北海道北へと尖り繋がらぬままの廃線鳥渡りゆく
裸などなき日常にヘアヌードポーズありあり見えてかなしも
一人くらい違う意見もあっていい言えば忽ち生きづらくなる
死ぬることずっと先だと思いしに高安国世逝きてしまえり
舗装路にごっそり枯れ葉盛り上がるかなしみ集め人生きるらし
権力者作りし大阪城跡に住所なき青テントが並ぶ
犬小屋が横に並びし青テント優しき男暮らしいるらし
クレーンより細き糸垂れゆっくりとビル新しく生まれゆくらし
篝火のようにすすきの穂が燃えて風もなく今日の陽が没りてゆく
大袈裟に持ち上げられて少しずつ自ずからなる本音を吐きぬ
人のため殺されてゆく生き物の形に冬の雲渡り行く
生きている間はせめて死ぬること忘れよ燃えて日の沈む見ゆ
一人の死知るより知らぬ側に行きその軽やかな笑いに浸る
人の死を聞いてしまえば眼前の景色もシャボンのごとくに消える
唐突に病に倒れし生徒あり間を置かず死の行事が進む
流れくるお経の意味に関わらずただ人の群れ静かに続く
あきらめを強いるかのごと火葬にてまず存在を消してしまいぬ
空や気となりて彷徨う死者たちを我ら吸うべし息白く吐き
菊の花机上に置かれし亡き生徒の椅子引きて最初の授業を進む
権威あるものに逆らい立ち向かう神あり我を支えしことあり
羊膜を破りて直ちに翔け昇り雄叫ぶ竜がわが裡にあり
幾重にも地に敷き詰みし赤や黄の落ち葉は夕べの波のごと見ゆ
まだ来ぬと冬の電車を待つ人ら己れの死までの距離も縮まる
携帯もインターネットも不要にて1・9・9・1・大みそか過ぐ
冬の日の白き光を着て動く生徒にドッヂボールが跳ねる
降る雪はあわには降りそ迷いいる妹の黄泉路を踏み分けて行く
かさかさと紅葉に迷いいつの間に明るき流氷原に来ている
光さえ呑み込む冬の夜の海に裡よりほどけつつ我がいる
物忘れなど責められて半日を最晩年のごとくに過ごす
生も死も幸も不幸も幻のように思えてくることがある
氷塊の横たうのみの青白き生も死もなき明るさにいる
大いなる意志にて動き生きている今流氷は燃え始めたり
生まれ死に生まれ死にして流氷の真っ赤に燃えるたまゆらにいる
己れすら光の一部となりて佇つ燃えつつ入り日消えてゆくまで
ゆっくりと沈みゆく日よ今日もまたあらゆる所に人の死がある
流されて終にとどまる氷塊の解けつつ真っ赤に燃える夕暮れ
見る限り光となりて流氷の海すみずみまで身内を巡る
流氷の斑らに浮かぶ夕月夜やわらかに波燃えて輝く
魂を光が迎えに来るという流氷の海夕焼けて燃ゆ
流されて追い詰められて盛り上がる氷塊我の生きざまのごと