新緑号十八号

炊飯器SLのごと蒸気吐く音して黎明うとうとといる

パチンコ屋ばかり豪華に人間が同じ方見て並んで座る

月天心墓すみずみまで照らしいて生者も死者もおおかた眠る

親しげに近づいては陰口捜すこの鼻糞のような人達

安心と力の威力試すため人殺しつつ銃あふれゆく

しょうがないやむを得ないの人達の死の有り様がテレビに映る

集会に座りし生徒見下ろして教師がのたりのたりと歩く

人を殺し人死ぬさまの淡々と流れて銃の音のみひびく

罪一つ隠蔽するため罪二つ泥沼這いずるわが分身は

にこにこと何考えて生きてんの?そんな顔してたい春の日は

人間の都合があまりに多すぎる一日を眠りに入りて安らう

楽しみのため乱獲をする人を映してテレビ幸いとする

脳裡には北海道の四倍の流氷原ありけものみちあり

あの鳥のようには飛べぬ流氷を伝いて君に逢いに行くべし

我に祖母一人も亡くてやわらかき百歳中川イセの肩抱く

カラオケのキーの違いで戸惑いの心合わさぬままに終わりぬ

果てしなく白く広がる氷原をオジロワシ我が見下ろしつつ飛ぶ

氷塊が風に押されて積むように生者も死者も我が裡に満つ

海に背を向けことごとく船並ぶ流氷原には影一つなし

ブランコの半ばまで雪積もりいる公園は鳥安らうところ

笑い顔持ちつつどこか醒めてゆく我を見ている自分がありぬ

泡割れたような形に雪原に丸き海あり氷片浮かぶ

雪の原覆いし朝にも渡りしが網走川青く水流れゆく

十米以内に棲みて隣人のくしゃみが所々で弾む

流氷に海閉ざされて陸の上雪積む船の数艘並ぶ

今はただ神のみ渡る氷原が天との境もなく広がりぬ

近づけば近づく程に寄り添いて一つの岩となる二ツ岩

帽子岩は神の岩にて二ツ岩常に寄り添う夕景を見る

真っ白な歯と歯の軋む音のして神のみ渡る流氷原あり

とろとろと昼立ち眠れば霧深き死のボックスの中に入りゆく

てきぱきと何を処理して改札機我が許されて扉が開く

流氷と海の境に群るる鳥生競うがに声高く鳴く

夢の中一筋の道流氷の彼方まで振り返らず歩く

ゆっくりと町も天へと昇りゆく雪の静寂(しじま)に坂上るとき

シロカニペランラン銀の滴降る生きとし生けるもののすべてに

人一人渡らぬ氷の平原に獲物を探しオジロワシ飛ぶ

日本人関口宏久米宏まず疑いをここに置くべし

社会とか宗教とか人満ちみちて高揚しつつ戦に向かう

贅沢な食事など我が願わぬを妻いぶかしく思いみるらし

地平のなお果てまで船の影もなく流氷原を日が嘗めてゆく

氷原の下に海あり恐ろしき人来ず魚がほしいまま舞う

流氷の間にま鎮まる波の上海鵜が魚くわえて走る

桜花着々日本を昇りゆき人ゆるやかに酔い痴れ始む

春の日の照りを集めてふさふさと花海棠咲く山道を行く

訳もなく憂いに浸りにふらふらと夜の桜の坂下りゆく

歩むたび次々桜開きゆく空の青さも輝きを増す

よく見れば空き地の小さな凸凹に姫踊子草艶めいて咲く

桜花波立ちながら海中(わたなか)の憂いに沈み我が歩みゆく

こんなにも憑かれて夜の桜花踊りあかそう人の見ぬ間を

とりあえずここまで生きて桜花次々開く坂上りゆく

花びらとなるため土や水たちの無数の出会いの上歩みゆく

咲き盛る束の間過ぎて所在無く風に一ひら花びらが舞う

悼むべきなのか喜ぶべきなのか死を食べながら人生きるのに

人責めて自分を責めて束の間の桜花愛で歩みゆくかな