腰痛の鍼の痛みはビリと来て心に沁みて快感残す
生きのいい魚の跳ねるその跳ねの鍼の痛みはときめきに似る
舌触りヌルと墜ちゆく一瞬の葡萄か鍼の痛み過ぎゆく
金持ちの人が格差の議論するテレビを切りて街に出でゆく
すすき原萩やわらかに彼岸花明日香の風は心に沁みる
夢ばかり次々出でて朝方は現つも夢の一つとなりぬ
五七五七七指を折りながら歌えば視野はドラマとなりぬ
高利貸はびこりながら首相さえCMめいた発言をする
一方で邪悪なものも育つらし中学校も社会の一部
冷酷で小狡く生きていく術も混ぜて授業の大方終わる
拳銃をみんな持ってるアメリカが核を持つなと小国に言う
彗星が体を巡る一瞬の燦めき鍼の痛みは沁みる
一瞬の鍼の痛みのようなもの死の瞬間も輝くものか
視野に吸い込まれるように進みゆく自転車とかく一体となり
自転車はかくぴったりと貼り付いて進むよ丸い地球の横を
腕時計おのが体の一部にて命終までの時刻みゆく
雲一つなく晴れわたった昨日から続いて今は雨降り続く
夜汽車しばらくを轟き過ぎし後コオロギ水の流れを歌う
嚔すら起爆となりて我が体こころぎっくり腰に怯える
突然に白いぎっくり腰が来る台風情報駆け巡る間に
去年とは違う金木犀の花匂えば心浮き立つばかり
見る度に不思議な金木犀の花幸せ運ぶと決めてしまえり
母居ればもっといいのに金木犀匂うことふと告げたくなりぬ
石舞台血で血を洗う古代より二上山の真向かいに見ゆ
今ここに生きているぞと思うことさえもなくなる跡形もなく
生きている間は現代仮名づかい清少納言もテキパキと言い
しみじみとすら駆け足で過ぎてゆく紅葉中継など聞きながら
この頃は憎しみさえも長続きしなくなるらし消えてゆくのみ
夕方の電車はエナメル色に過ぎすすき穂揺れて静けさ戻る
年賀状ご遠慮願うと友の死の書かれた葉書唐突にあり
笑っている眉毛のような雲一つ見上げてばかり十月の朝
夕方が闇へと変わるゆうらりとエノコロ草は光をまとい
納得のいく歌だけを作りたい職人川添英一でいい
真剣に怒れば機嫌取りに来る娘は娘思春期なれど
審査員変われば受賞作変わるそれだけたかが人決めたこと
そこだけにしか通じない論理満ち所詮弱肉強食の世か
人が人滅ぼす習い続き来て高松塚の壁画危うし
橋あれば橋渡りゆく安威川に白鷺一羽足浸し佇つ
人により性の好みの違うこと今日も無数の人すれ違う
きもい死ね言わず堂々批判せよ自分に返ること覚悟して
梨を噛む噛めば溢れてくる汁の喉に垂水のように墜ちゆく
梨の実の芯の辛さも少し食べ勤めに出でん我慢もあれば
柿果肉壊しつつ喰う残虐なことも好みて人生きてゆく
噛み砕く鰯の干物死も食べて生きる因果を味わいながら
ウミウシのように我が舌動きいる眠れば海の底にいるらし
泡立てて唾を滑らす舌の上わがウミウシとなりて眠れば
すんなりといかない方がいいのかもなど青空は教えてくれる
父のあの頃の年齢なのだろう黄葉見つつ日々早く過ぐ
いにしえも正義も悪もいかならん大方勝者作りしものを
宝くじ一瞬夢を見てしまうその時めきも積み重ね来し
山々の間に雲湧けばくっきりと北摂山稜人並むごとし
脱糞と交尾と人も繰り返し如何ほど森と土作りいし
大宇宙わずかに変わるとも見えずたちまち人も地球も滅ぶ
野かNOか少し不安に立っている人の字支え無くしてしまえば
人生は所詮ギャンブルなのだろう明日の命を誰も知らない
JR下のトンネル抜けて行く自転車今日も明るくあれよ
トンネルは小さな川も流れいて一匹の鯉時折跳ねる
トンネルの近くに小原二三夫さん全盲なれば杖を頼りぬ
二三夫さん信号渡り切るまでを確かめている自転車を降り
二三夫さん歩めば千賀子さん無事と思いて勤めの学校に向く
全神経集中させて杖と行く全盲なれば声掛けず過ぐ
旅先の同室父と語り合い鼾をきけば安堵して寝る
楠のひときわ高く鴉鳴き熊野速玉神棲み給う
熊野川神の河にて坐す熊野本宮おどろおどろを祀る
山中の白き一筋那智の滝見ゆるは常に新しき水
轟々と絶えず地上を打ちつづく滝あり心鎮まりながら
風吹けば風に揺られて那智の滝見るたび心洗われてゆく
厳かに神を怖れて暮らしいる古代も今も人は変わらず
新ためて心と神を思いおり滔々と水は瀞峡下る
詠わねばいられなくなる瞬間は言葉が躍る神宿りつつ
冬山の青岸渡寺を出でて見ゆ白き一筋ただ動くのみ
もっと人生を楽しみ暮らすとよ!母の遺影が笑いつつ言う