冬空にオレンジ色の満月がこの世の出口くっきりと見ゆ
人も動物のかたわれつづまりは食事排泄交尾へ戻る
歯の奥の痛みに耐えて眠る夜は愛欲すらなきことを哀しむ
海底を泳ぐウミウシさながらにわが舌歯茎と歯に触れて棲む
口の中常濡れながら内臓の入り口守る舌ひらめかせ
歯の根っこ怒って語りかけてくる夜は痛みを受け入れて寝る
内臓の痛みが教えてくれること無数の命が命を守る
やみくもに猪突猛進する時を捕らえて遊ぶ歌作りつつ
砂浜の波打ち際のような雲めざして雁の群渡りゆく
甘え声頼りない目をして仔猫可愛さこそ身を守る全てか
蛇のようにミミズのように我が髪が洗面斜面を流されて行く
人がはやペットにされて飼われいる未来の地球転がっていく
道真中保ちつつ角曲がりゆく全盲なれば神宿るらし
地を叩く音一瞬に浴びながら物は形を顕すものか
追い詰めて追い詰められて眠りつつ母呼べば母応えてくれる
見る夢の中では死者も生きていて時々若い母も出てくる
四分の一は眠りの中にいてストレスのない夢ばかり見る
現実は夢の続きかまだそんな夢見ておらぬと思うことあり
孤児あれば父母のこと話せずに授業が進む如何ともなし
夢だけは誰の邪魔することもなく存分に見る今日も明日も
僕の夢だれかの夢と繋がって眠りの森の地球広がれ
我が言葉他人の言葉も流れいてこの視野こそが生なのだろう
ゆっくりと走る人あり川遠を溶かして赫き日が沈む見ゆ
動かずに見えて流れるものばかり川土手歩めばこの夕明かり
束の間も一期一会か安威川の浅瀬を歩む白鷺が見ゆ
川明かりすべてが遠く聞こえいて風吹くたびにさざ波の立つ
再生を信じたくなる二月尽椿の赤き花転がりぬ
黒土は北海道の春の色堅雪溶けて湯気立ち昇る
見上げれば音くぐもりて滝の水落ちる途中に次々凍る
小春日はうなじに虫の宿るらしむずむずと我が笑いたくなる
今朝冷えてどこからともなく虎落笛家々の間を渡りゆくらし
次々に明るく家が浮かびいて私の町も雪暮れてゆく
悔しくて眠れぬ夜は歌作る絶好の時作れば楽し
思っても詮無きことが次々に出でて自分を叱りつつ寝る
しょうもない歌にもならぬことばかり無駄に過ごしていると思えり
偉そうな教師に反撥したくなる生徒の心残しておこう
良い教師悪い教師と分けてくる教師が責める苛立ちながら
聖教者ジャンヌダルクを貶めし神父もキリスト教徒の一人
ニンニクを人の肉だと思ってた小学生時も死の匂いあり
雑踏に目を凝らし見る亡くなった母がまだいるような気がして
首垂れて枯れ蓮群るる鎮まりの水面は白い空映しいる
神々の岩より生れて熊野川大きな龍の常進みゆく
グランドのサッカーの声聞こえいて学年会議は縺れつつ行く
裸枝に芽あまた出でて桜木は冬の光に輝きて見ゆ
雲海の下を流れる川の底ヒト棲む地図の鎮もりが見ゆ
ヒトの引っ掻いて作った都市が見ゆ雲より高く天に昇れば
さまざまな図形の中にヒトが棲む雲の上からふと見下ろせば
吹雪きつつ美幌峠の黒き文字何も見えない白きただ中
ただ白き美幌峠の小丘に本田重一思いつつ行く
既にわが一部となりて道東の風吹き抜ける眠りにつくまで
羅臼岳明るく消えて光のみ満ちて透明に山も輝く
フレぺの滝絶えず涙を流しつつ人は明るく生きていくべし
流氷の海駆け巡る鹿の群れ見れば時めく我が命あり
本田さん知布泊の喫茶店窓に流氷の海広がりぬ
流氷となりて彷徨う道東の雪は静かに沈みつつ降る
湖は天を映して自ずから磨かれ天より輝きて見ゆ
摩周湖のカムイヌプリ我が幸せにありやあらぬや安らぎて見ゆ
彼と来し最後の旅か屈斜路の和琴白鳥伸びをして鳴く
彼と来し故にこの地に会いたくて晴れて美幌峠に立ちぬ
積む雪の白温めて富武士の山に薄日移動していく
見る限りサロマ湖白き一枚の布にて空とのけじめすらなき
サロマ湖は果てまで白き輝きが陰影なきかなしみをいざなう
富武士の冬の薄日とど松の上にふうわり輝きて見ゆ
海よりの風吹き付けて能取湖はただ空白の明るさに満つ
氷点の陽子となりて歩みいる海岸町から二つ岩まで
二つ岩一つの岩に見えるまで歩めば心和らぎてくる
神様のような人よと母言いし三浦光世氏わが前にあり
氷点の陽子も右にオホーツク氷海見れば愛しみが湧く
二つ岩に燃える真っ赤な流氷を辻口陽子見し今もなお
人の世はこんなものなのだろうかと異なる世界覗きたくなる
あと五分だけ寝ていたい地の底に眠れば夢も現も沈む
気に入らぬ者を悪だと決めつけるヒトよもういい加減にしろよ
反対の真実もある殺し合い認めず許さずヒトするけれど
正当化、保身の為の嘘に満ち幾多の事実変えられていく
生も死も詠うよりほか術なくて信仰深き人を羨む
信のない我が行き先は如何ならん神に召されてとは言うけれど
黎明の高く悲しき猫の声聴きつつ時は瞬く間に過ぐ