人生の卒業式はばらばらか証書名簿の呼応聞きつつ
勝つ勝てと名誉会長称えいる新聞未だ中味まで見ず
管理職なれば汚れてしまうのか何とも切なくなりて向かいぬ
そこだけにしかない論理溢れいてヒトは滅びを加速していく
美しかね!我が裡に棲む母が言う桜花びら落ちるしばらく
安威川へ亡母に桜を観せに行くあれから四年が経ってしまえり
空を飛び羽うねらせて耳元にヒトを攻撃するつもりか蚊は
高熱で唸っているのに市議選の最後のお願いコールが響く
人よりも早くに叫び鳴き交わす獣の朝をまどろみて聴く
目を閉じて朝を味わうクークーと遠くの鳩の声しきりする
日本では食べぬ平和な鳩の声くぐもりながら朝をこだます
駐車場隅に小さな菫咲く紫は亡き母愛でし色
溜め池のように夕日に照らされて生徒のいない机が並ぶ
えっ、みんな嘘じゃないかと思うこと此頃多くなりて過ぎゆく
月明かり清かに照りてアスファルトつぎはぎだらけの舗道を通る
トンネルの中の溝川それ以上大きくなれぬ鯉跳ねている
何もかも順調ならば歌なんか出来ないだろうと諦めている
月の前雲渡りいる夕べまでしとしと雨が降っていたのに
工場は跡地となりて深々と空と雲との光ひろがる
前向きに明るく生きていればいいこの世は全て幻なれば
強く言い怒ってなんかいないぞと生徒に言いてさらりと終わる
悪いことしてみて世間知ることも君らの仕事なのかもしれぬ
ちょっとしたことで落ち込む君に告ぐチャンスと思え明るくなるぞ
どのように米膨らんでいくのかと炊飯器の音聴きつつ眠る
一日に一度サナギとなりて寝るヒトよ羽ばたくために眠ろう
何糞と思いてハハハと笑いいる強くなるべし逆境なれば
人生はオセロゲームと思うべし終いに一気にひっくり返せ
二年三組学級通信羅針盤舵取りながら毎日綴る
不登校生徒の椅子の不揃いを直して今日の授業を進む
母もその中の一人と思い読むがばいばあちゃん声聞こえつつ
無法松は小倉八幡の言葉にて粗き優しき気性も伝う
遡りほぐしてやらねば此の生徒小学時代のトラウマに満つ
眼球が痛くなりつつ物を見る此の頃急に衰えが増す
雨止みて北摂の山くっきりと心も澄みて一日始まる
雨後なれば虹鮮やかに立って見ゆ幸せは今生きていること
雨の音聴きつつ朝は起きるまで流氷記の歌出来れば楽し
あの虹は自分の上にも立っている守られながら人は生くべし
虹となり母が微笑む幻覚といえども楽しひとときなれど
その為に生まれて来たのかこの今も逆境にこそ歌作るべし
胸塞ぐ不安の中に歌作る鮮やかな自然想い浮かべて
かつて暴力に怯えし生徒にて微笑いつつ過去話してくれる
叩かんと分からんなどと世間言う暴力に抗うべき学校に
なめられてしまうと思い凄むのか教師も弱い弱い生き物
違うだろ迫力なんて ゆったりと優しく生徒の心をほぐせ
パソコンは世間の扉か開きざま削除し禁止するものばかり
紫陽花の雨ののち虹鮮やかに立ちて見守る不思議がありぬ
生きている不思議不可思議苦も楽も過去となるべし微睡みながら
母の死と一日違えば六月は美空ひばりの特集に満つ
触角を揺らしてゴキブリ身構える恐怖の的の我と向かえば
容赦なくゴキブリ叩き潰すとき阿修羅のようなしびれが残る
わが体加齢のままに崩れゆく覚悟しておけやがては消える
唐突の虹の出現見るように今日在る不思議噛み締めている
怒りつつ励ます所作も身に纏い生徒の小さな成果見ている
見えなかった山が見え空広くなる工場敷地に虹かかりいる
この空に虹が架かればいいのになぁ思いて虹を描きつつ見る
無造作にここに戻るよ音立てて雨紫陽花の懐に降る
同じ道なれども行きと帰りでは距離が違うと思うことあり
神仏信じるべきか運不運授ける何かがあると思えり
空見つつそのうち何とかなるだろう呟くことで希望を繋ぐ
深夜猫赤子がぐずるように鳴く言いたいことを貯めているのか
桜花残りて青葉きらきらと光と風を浴びながら舞う
過去のどうしようもないその時の恐怖が残る実感のまま
死の恐怖突然出でて眠られぬままに宇宙を彷徨いつづく
逆境になりてもチャンスだと思え平穏無事よりいいかもしれぬ
水田の水面に電車過ぎて行き区切られた空揺れつつ映る
山椒の葉に美しき青虫の付きて殺さぬように告げおく
母死にて母の心を思うとき遺伝子の奥行きが広がる
機上より雲見下ろせば流氷となりてその下人泳ぐらし
雲海の彼方明るく青い空母棲む浄土あると思えり
一日がかく速く過ぎ避けられぬかの日を思う如何ともなし
太陽もやがて燃え尽き滅ぶのに一つの命惜しむこの夜
考えることも出来なくなる恐怖漠と抱えて今日も過ぎゆく
流氷が海を覆いて去って行くこの迅速を愛すべきかも
何思い山路虹生と名づけいし本田重一よみがえりくる
束の間の虹架かりいて全盲の人と出会いぬ見守りながら
雀とは違う声にておしゃべりの弾む朝方微睡みて聞く
鳥たちのペチャクチャ際限なく続くヒトの失態語られるらし
暗きところ不思議になくて義芽展の書も絵も踊る優しさに満ち
その昔北海道に家出せし義一少年何思うらし
勝新と田宮二郎の明るさを藤本義一氏作り来しかな
魂の必ず通過するところ藤本芽子の絵が踊り出す
黴のように命が伸びて増えてゆくそんな来世なのかもしれぬ
新ためて藤本義一の白髪に思う時代を作り来し顔
紫陽花に虎が雨降るしめやかに母亡くなりて四年となりぬ