親を食べ生きる虫ありさながらに母死にて後わが裡に棲む

明け方に走る列車の音聞こゆわが人生の旅もたけなわ

珈琲にミルクが落ちて広がれど所詮器の中に収まる

足組みて股間を抑え座りいるミニの女の恥じらいが見ゆ

殺人が今日もどこかで起きている神の配分なのかもしれぬ

お坊ちゃん家庭教師で育ちいし首相が教育改革を言う

文法がしたり顔して分類しそこから言葉逃げていくべし

いくつもの黄色歯車回りいる風にゆらゆら小車の花

境目は無理にどちらかに入れて文法教科書微妙に違う

現代歌こうあるべきという声を無視して歌壇から遠くいる

大方は面白くもない笑いにて若手漫才冷ややかに聴く

オモロナイと中学生の娘言う若手芸人今花盛り

思い込みのみが笑いを誘うのか笑いと白け同居して観る

生真面目な人を小馬鹿にした笑い我が言われたような気がする

ムクムクとひしめき合える鶏頭の色鮮やかな花を見ている

笑いつつ笑う笑いを笑えない苦い笑いに気づいてくれよ

ボロボロに打たれて投手座りいる身につまされて心に残る

蓮の葉の渦巻きにつつ蓮の花静かなること時まで止まる

蓮の花開いて落ちし一片を見ているカエル眠そうな目で

風吹けばサワサワ騒ぐ蓮池を映画のシーンのごとく見ている

いつ来るかわからぬ死まで生きていく人は孤独を噛み締めながら

面白くなければ流行りの歌といえど我に関わりなしと思えり

落ちてきた蝉を貪る野良仔猫命が命の中に収まる

連なりて六甲よりも低き雲その下神戸の街も暮れゆく

波立てて海流れれど逆らって船は出航までをとどまる

次々に地表の疵のような波常変わりつつ輝きて見ゆ

同じように見えて二つとない波の形溢れる海飽かず見ゆ

赤き陽が波間に映り広がれば海の匂いも紛れゆきたり

近づいて潜りてやがて遠ざかる明石大橋灯りのみ見ゆ

孫悟空ここが果てだと考えた掌かざす眠りの間あり

蝉となり鳥となりして叫びいる生ある不思議と死の淋しさと

生ぬるき夏へ移ると思いしがはやおのずから落ちる蝉あり

台風が近づくらしき風に乗り朝焼けながら雲渡りゆく

殺人を暴くドラマと悪を斬る時代劇観て盆も過ぎゆく

宗教も思想も違う国境に赤く染まりて雲流れゆく

ドラマでは殺人事件ばかりにて己れの死など誰も思わず

その景色昔も今も変わらない木槿花咲く路地裏がある

熊蝉は卵産むため少しずつ小さな命移動していく

冷房もつけず自室に篭もりいる我に熊蝉鳴く声響く

我よりも母亡くなりし後の父逞し料理美味く工夫す

戦争を生き延び父は自ずから長生きすべしと言い聞かせ生く

ことごとく逆風満帆なれど行く前代未聞なればなお良し

雲の手が北摂の山撫でていて優しさが今全てとなりぬ

営業所同じ自動車の並びいて夜の繰り返し人の世もまた

工場の跡地の中の水溜まり空の青さと輝き映す

新しき水流るるを新鮮に思えて今日も安威川渡る

犬連れて岸行く人も流れゆく安威川過ぎて夕刻帰る

チカラシバ握れば毛虫出でてくる掌は心地よきリズムを刻む

今朝晴れて木々の緑も陰影も北摂山容くっきりと見ゆ

特別なものなどなくて佐賀北は粘りと勢い積み上げて勝つ

一点差阪神巨人に連勝し今年の秋が始まらんとす

昨日まで元気な人が今日未明死すと長嶋夫人の報あり

佐賀北の逆転劇に人生の希望と不思議思うこの夏

去年まで家在りし野にネコジャラシ緑に満ちて虫の音聞こゆ

みのもんた一千万円クイズ流れテレビの支配如何ともなし

野良猫のウンチも雨に流される土無き道を水走りゆく

我慢することを忘れて金使う我も日本も滅びつつあり

金貸しのCMばかり貧すれば鈍す人らを対象にして

北摂の山より高い鉄塔の電気が人を狂わせていく

絡まりてかつ飄々と伸びている七草ほどの秋の草はら

葛の花クズの流れの上に咲き夏の終わりを何となく知る

一昔前の映画は死者ばかりあとひと未来もうすぐなのに

撫子は今にも飛んでいきそうな翼の花よ夏終わりなば

撫子の花咲き浮かぶ野を過ぎて夕焼けながら帰路急ぎゆく

萩群れている野に入れば千年の命が我に宿ること知る

天武持統陵は池なく蕎麦の花広がる野辺に浮かぶがに在り

見る限り絶えず揺れてる女郎花時折蝶や蜻蛉が止まる

追われつつ秘かに潜みし義経も見し藤袴秋の日に照る

平安の紫色よりしめやかに桔梗の色は今の紫

赤カンナ陽に照らされて公園に子供の姿つゆ見当たらず

駐車場隅にオオバコ群れて咲き人の強さよ上向きて伸び

淀川の河原歩みてしばらくは薊の花の前にて止まる

赤まんま優しく絡みながら咲く溝あり水の流れなき間に

入院の幼き我に母会いにサルビア燃える道歩み来し

苦しみが次から次へと湧きながらヒメアカタテハ我がめぐり飛ぶ

コスモスの花散りながら星々と我と関わりなき筈もなし

悲しみをコマ送りしてベニシジミ葉のなき枝にはばたき止まる

戦場は怖いというのみ戦争のことは語らず伯父逝き給う

予科練に受かりし過去も持ちながら伯父逝き給う平成半ば

夜に目が光って兄さん怖かった戦争直後の伯父を母言いき

安らかな死に顔見れば安らかな浄土あるかもナミアミダブツ

夕暮れて明るきところ目指し飛ぶ雁の群れあり消えてゆくまで

我々も狂い初めているらしい地球を人が弄びきて

目の前にこんなつまらぬ人がいる同じヒトだと思いたくなし

共喰いをする動物の哀しみよ吊し上げつつ憎しみを増す

優しさを憎むはらからキリストやジャンヌダルクの処刑を思う

一つ憎しみが芽生えてずるずると好意も善意も悪意に変わる

悔しさもやがて哀しみへと変わる壊れて滅びゆく姿かも

性悪な人と出遭えばやり過ごすより他になく無念が残る

ヴェロニカに遇いしイエスの悦びか真っ赤な紅葉の一樹輝く

誤認逮捕自白強制させられる人は或いは我かも知れぬ

目に余る嫌な思い出クリックし削除し終えてパソコンを閉ず

愛おしきものの一つに温かき布団の中の我の空間

年々の生の終わりに華やかに彩り豊かな桜木並ぶ

人の目に焼き付けておけ桜葉は今はらはらと宙を降りゆく

さまざまな紅葉黄葉の山を縫い舟にて午後の保津川下る

山陰線鉄橋五回くぐりいて舟は保津峡縫いつつ下る

旧線をトロッコ列車走りゆく紅葉の傾りの中に収まる

山々の間に愛宕山鮮やかな紅葉山肌立ちはだかりぬ

風吹けば紅葉幾ひら降りてくる保津川険しき渓谷下る

嵐山赤黄茶溢れる山肌が保津川下りの終点となる

嵐山幾千年の人々の愛でし曼荼羅紅葉の傾り

意のままにならねば怒りぶつけいる人の哀しき性を見ている

ヴェロニカとなりて支えてくれたこと君の優しさ心に残る

新しき世界を欲りて春を待つひたすら熱き心となりぬ