歌『幸紐絡』
横になり眠れば父と母に逢う彼岸此岸は我が裡にあり
鮮やかに緑葉伸びて満開を過ぎし桜の花匂いくる
歌出来ぬままの半年桜散り藤も盛りを過ぎてしまえり
花びらが落ちてしまえば鮮やかに若葉桜木光をまとう
我が裡に怨憎会苦ふさがりて桜の盛りもたちまちに過ぐ
物語の人らのごとく人動く藤の花房揺れつつ香る
次々に現つは過去となりてゆく藤の花房人愛でる間に
雨の音聴きつつ眠れば今は亡き父母想うよみがえりつつ
明日は今日今日は昨日へ変わりゆき時の流れは容赦なく過ぐ
物忘れ惚けゆきつつ死の準備しているのかと思うことあり
朝御飯炊く音ドラマめきてくる布団の中にうとうとといる
目を閉じて見える光の点滅と命の鼓動聴きつつ眠る
生き生きと脳裡に浮かぶ父と母亡くなりてより身近となりぬ
IDとパスワード押せサモナイトアナタノスベテケサレテシマウ
借金の重みで日本州となりかつて日本という国ありき
新鮮な死体が並び流れくる回転寿司をほおばりて食ぶ
何もかも遠くに聴こえ夢に入る未生と死後とつながりながら
通るたび鮮やかなれば立ち止まりオシロイバナの桃色やさし
雨あとは最も鮮やかに見えて黄の山吹の微かに揺れる
偽りの方を選ぶの優しさも肯いながら還暦も過ぐ
目に見えぬ鳥の声する庭に出でてとうに隠れし父母捜す
何につけ五七五七七で書く支離滅裂も思考のひとつ
真っ白な蒸気吹き出す湯けむりを飽かず眺めて終日暮らす
寝るときも五七五七七にして歌作るべし迷うべからず
湯けむりの作る瞬時に干支となり龍や羊や兎が跳ねる
湯けむりの瞬時に変わる姿こそこの世の形なのかと思う
一瞬にして人は生き消えてゆく湯けむり噴き出でては風に消ゆ
空に浮く雲となるべく真っ白な湯けむり風のなきとき昇る
兎となり龍となりして湯けむりは風吹くたびに形を変える
一瞬にこの世に出でて湯煙はたちまち風に溶かされて消ゆ
新幹線坐れば三時間で着く九州は我が生まれたところ
かつて我が日本も毒されていしか日帝米帝粉砕の文字
中国や北朝鮮を理想としかつての学生運動かなし
こだわりを一人一人が国国が持ちて争うこの世の習い
弁長と親鸞共に学びいる数年があり心ひとつに
法然の愛弟子なれば気遣いて互いに庇う同胞として
さまざまな要素孕みし法然の十大弟子など考えてみる
法然の認めし弟子を誹るなら法然誹ることわりとなる
近きものほど反撥し憎悪する道理知るべし歴史たどれば
大国の日本自治区となることも津波の如くあるやもしれぬ
日本という国名も消えてゆく危機ありありと侵略される
南から北から徐々に食べられてかつて日本という国ありき
侵略はせずともせめて守らねばならぬ日本の苦悩がありぬ
弟妹の非道さに苦しむ父ありき優しさもほどほどにしないと
パソコンには無数の悪が詰まりおりどんな悪かと覗きたくなる
露天風呂少し恥じらいながら入る女性と話す笑顔を向けて
気がつけば還暦なのか生なんてあっと言う間に終わってしまう
流氷の季の近づく網走の便りを聞けば生き生きとする
流氷の近づいてくる気配ありありと寝床に浮かびつつおり
流氷の白い軍団近づきて冬将軍が網走に来る
流れ着き岸にとどまり溶けるまで氷塊独りほそぼそと泣く
星に住む王子のように流氷の上を歩けばかすかに揺れる
土間竈田舎にありし幼き日思い出しつつ眠りに入りぬ
目の覚めることなき時がいつか来るなど思いつつウトウトといる
テレビにて除夜の鐘聴き眠りいる別にいつもと変わることなく
枯れて立つ背高泡立草揺れて電車過ぎゆくまで待ちている
犯罪と死者がどこかで常にある地球は回るとりとめもなく
雪混じり風吹き渡るすすき原晒せば強く生きていくべし
海岸に取り残された氷塊が涙差しぐみ徐々に溶けゆく
思わねば思わぬままに迎えねばならぬ不可避の死を思いおり
本当に独りになりて死にたいとこの頃思う風の吹くまま
亡くなりし人の齢が残るのみ新聞閉じて今日始まりぬ
くっきりと流氷原と照らし合う月ありありと目の前に見ゆ
わが命など一瞬のきらめきか冬の銀河の瞬きつづく
侵略をされても遺憾としか言えぬ日本に住む何とか無事に
パソコンに心奪われ覗き見る画面は洞窟なのかも知れぬ
1と0数字が並んでいるだけの錯覚画面人は見るのみ
パソコンの四角い画面にあやつられ人は争い滅びゆくべし
たどりゆく「たどりいく」とは言わぬこと不可思議なれどこだわりており
敗戦の国ばかりなぜ責を負う定めといえど哀しきことよ
かつてフジテックタワーの聳えいし空より雪のゆったりと落つ
理不尽な死を遂げし人満ち満ちて歴史覗けば安らぎてくる
生きて死に生きて死につつ人もいて地球は回り宇宙も動く
伯父の死の葬儀に親族代表を我に譲りし父直に逝く
わが口の中に我が舌ゆらゆらと深夜も濡れて常泳ぎおり
次々とバスに乗り継ぎ迷いいる夢の続きにまた眠り入る
突然に町に津波が押し寄せて瓦礫の荒野ばかりとなりぬ
次々に捜すことのみ現れて夢の中でも本見失う
人混みに紛れて亡父も亡母もいる地下街歩む夢のごとしも
怒り泣き心動かす猿芝居この頃少し醒めて見ている
どれだけの人の命を奪うのかそんな猿芝居に騙されて
真っ黒い海のはらわた寄せて来る津波に町は流されて消ゆ
害虫!と呟きながらレーニンは次々人を殺めては過ぐ
高らかに平等自由を言いながら身近にあまた対象外あり
服を脱ぐように花散り鮮やかな緑のさやぐ桜木となる
夢現つ夢の一つの人生を今生きている風に吹かれて
待ちわびて国語が好きな生徒たち授業があっという間に終わる
昨夜見し夢の続きの中にいるもう日が暮れてきたというのに
ニセアカシア少し汚く見えてより夏が近づく今年の夏が
鮮やかに母現れて夢の中なれど涙で胸熱くなる
いつの間に夢も現も過ぎてゆく死に何となく近づきながら
考えや想いに脳が騒ぎ出し眠れぬ夜は歌作るべし
悔しくて眠れぬ夜は歌作り怒りも我の力となりぬ
鮮やかなジュラ紀のような水清き岸辺に迷う眠りに入れば
花水木新緑叩き落ちる雨祈りのごとき静けさに満つ
花水木淡き緑の葉を垂れて雨に打たるる祈りの如し
桜樹を蝉がたわわに響き鳴く一期一会と思いつつ過ぐ
鷹山はひねくれ者を起用して藩政改革せりと伝えき
リンカーン人の顔には責任があるとの言葉甦りくる
可愛そう気の毒だとは思えども性悪なれば関わらずいる
どうにでも言える評価が歴史にも現実にもある心澄ませば
何となくそういうことになる過程気分に乗ってしまうことあり
緊張と覚悟の上に颯と立つ少年に風さわやかに吹く
一人崩れても壊れる七段の組体操が立ち上がりゆく
いくつもの画面より選り夢に入る眠りは楽し歳重ねつつ
ポケットの中に器用に複雑に紐絡まりぬ悪意なるべし
神は何も言ってはおらぬ神を言い訳に争い人滅びゆく
夕焼けて彼方へ蛇のように輝る川面にしばし動けなくなる
朝の土手風にさゆらぎ見るからに緑に滲む菜の花群れる
プライドとこだわり故に譲られぬ断り方の練習をする
明日が来るのを待ちわびる確実に死が近づいてくる筈なのに